大分家庭裁判所 昭和62年(少ハ)1号 決定 1988年2月19日
少年 G・H(昭42.6.20生)
主文
本人を昭和64年1月17日まで中等少年院に継続して収容する。
理由
(申請の要旨)
本人は、昭和62年3月18日当裁判所において、中等少年院送致の決定を受けて福岡少年院に収容され、少年院法11条1項但書による収容継続期間が昭和63年3月17日に満了するものであるが、本件非行の性質・態様及び本人の問題性の除去・改善の度合を考慮すれば、同日後もある程度出院準備のための院内教育を施した上で仮退院させ、その後円滑な社会復帰を図るためには相当期間保護観察に付することが必要であるから、少年院法11条2項により同月18日から10か月間の収容継続を求める。
(当裁判所の判断)
1 本件記録、当庁家庭裁判所調査官作成の調査報告書及び審判の結果によれば、申請の要旨記載の事実のほか次の事実が認められる。
(1) 本人は、昭和62年12月1日1級の上に進級し、その間にガス熔接者、危険物取扱者主任の資格を取得し、大学入学資格検定試験に合格しているが、心理的視野は狭く、判断の基準もやゝ固定的で融通がきかず、柔軟性のある思考が困難であり、自己規制が厳しいため自己の欲求や感情を抑圧しており、社会的場面では精神的緊張とともにそれに伴う疲労があり、規範に忠実であろうとするあまり、危機的場面にあつては臨機応変の柔軟な態度がとれず、性格面の固さと相まつて時には心因性の不適応を生ずるおそれがある等本件非行の要因となつた性格上の諸問題がいまだ改善されていない。
(2) 本人の非行が殺人・窃盗で、かつ、殺害の方法が残酷で社会の耳目を聳動させたものであるという事案の重大性と、本人の前記資質上の問題点を併せ考えると、予後に少なからぬ不安を残しているから、その不安を解消し円滑な社会復帰を促進し、従前乏しかつた親子間の心的交流を深め、現在流動的な具体的進路確定に関する調整を図るため、仮退院後において、相当期間の保護観察による指導が必要である。
2 以上の事情を勘案すると、本人の性格上の問題点がいまだ矯正されてはおらず、今後なお出院準備教育を施す必要があるが、収容期間満了日の昭和63年3月17日までに同教育課程を履修させることは困難であるし、また、仮退院後も前記のとおり相当期間の保護観察による指導を必要とする特別事情が存在すると認められるところ、福岡少年院における前記処遇の経過からすれば、さらに、院内教育に約4か月間、仮退院後の保護観察期間として約6か月間必要と考えられるので、本件申請のとおり収容継続の期間を昭和64年1月17日までとするのが相当である。
よつて、少年院法11条4項、少年審判規則55条により主文のとおり決定する。
(裁判官 河原畑亮一)
〔参考1〕収容継続申請書
福少発第1、196号
昭和62年12月8日
大分家庭裁判所長殿
福岡少年院長 ○○
収容継続申請について
少年名 G・H(昭和42年6月20日生)
本籍 大分県玖珠郡○○町大字○××番地の×
保護事件番号 昭和62年少第195号
上記少年は、昭和62年3月18日貴庁において中等少年院送致決定を受け、同年3月20日当院に収容されたものであります。
少年は、少年院法第11条但し書きによる収容継続により、昭和63年3月17日に収容期間が満了するものでありますが、本件非行の性質・経緯と少年の問題性の除去・改善の度合を考慮すれば、出院後も、ある程度の期間保護観察期間を設定することが、円滑な社会復帰を図る上で必要と思料されます。
このため、下記に掲げるとおり、少年院法第11条第2項により昭和63年3月18日から10ヵ月間の収容継続を申請します。
記
1 処遇の経過
昭和62年3月20日 入院・考査・2級の下編入
昭和62年3月31日 少年院法第11条第1項但し書きにより昭和63年3月17日まで収容継続
昭和62年5月1日 2級の上進級、教科教育課程(高等学校教育)編入、問題群別指導・家庭問題群、生活指導課
程印刷科で体験実習(午後)
昭和62年8月1日 1級の下進級
昭和62年8月28日仮退院準備面接
昭和62年10月1日教科賞
昭和62年10月26日 大学入学資格検定試験合格の連絡受
昭和62年11月1日 教科賞
昭和62年12月1日 1級の上進級、努力賞
2 心身の状況
知能はIQ=115(新制田中B式知能検査)で、中の上段階にあり、社会的な常識もわきまえているが、心理的視野は狭く、判断の基準もやや固定的で融通がきかず、柔軟性のある思考は出来にくい。
現実吟味や場面の洞察は冷静にでき、自分を周囲の場面にきちんと適応させようとするあまり、自分に厳しく対応し自己をかなり抑制している。このように、セルフコントロールが厳しいため、自己の欲求や感情を押さえ、抑圧しており、社会的場面では精神的な緊張とともにそれに伴う疲労があり、規範に忠実であろうとするあまり、危機的場面にあっては、臨機応変の柔軟な態度がとれず、性格面の固さと相まって時には心因性の不適応を生ずる恐れも考えられる。
対人場面は適当な距離をもって接し、決して自分の内面は他にさらけ出さないようにし、ある意味では自己防衛機制が強く、表面的にしかかかわらない。
ものの見方や考えは、ことさら偏っているとは言えず、価値観の歪みはない。
身体的には異常は認められず、健康である。
3 保護関係調整状況
少年の帰住調整先は、大分県大分郡○○町大字○○××の×G・M(実父)のもとである。
環境調整上の問題点は、会話も少なく冗談を言って笑いあうこともなかった親子の愛情を中心とした結びつきの改善、及び出院後の生活設計についてである。
昭和62年10月5日付け大分保護観察所発の環境調整追報告書によれば、家族は少年の一日も早い更生を願っており、「受入れ可、引続き出院後の生活設計・就業見込みについて調整する」とのことである。今後、更に通信、面会を通じて親子間の心的交流の深化を図ること、及び少年は資格取得のための専門学校進学を希望しているが、その具体的進路について確定するための調整が必要と思料される。
なお、在院中の通信、面会状況は、家族への発信12回、家族からの受信13回、面会8回(父母、姉)である。
4 成績の推移
別添資料による成績経過記録表(写)、個別的処遇計画表(写)のとおり。
5 今後の教育処遇及び内容について
少年は、現在1級の上であり、本年12月1日より出院準備教育過程にある。出院教育期間の教育目標は「ゆとりを持って自分から物事に係る」「無理のない生き方を探る」「他に心を配る」であり、少年に対し、この残された出院準備教育を履修させ、仮退院とし、残余の期間を保護観察による指導へと移行実施していく予定である。
しかし、現在の残された教育期間では、少年の問題点、決定事犯に対する社会感情等を考慮すると、円滑に社会復帰させることは困難であると思料される。
なお、出院教育において、少年に施すべき教育内容は、次のとおりである。
(1) 奉仕活動、役割活動で臨機応変かつ協調的に物事に取り組む態度を培う。
(2) 個別面接、集会、課題作文等で事件を念頭に置き、どう生きるかをつかませる。
(3) 宿泊面会をさせ、親子が心から触れ合う機会を設ける。
6 結論
残された教育期間において出院準備教育を施し、保護観察による指導へと移行していくことは、少年の資質上の問題、決定事犯が社会に与えた影響等を考慮すると予後に多くの不安を残し、少年の将来にとっても不適当と思料される。
少年の問題点の改善と人格の矯正及び円滑な社会復帰を図るためには、向こう4月乃至6月程度の院内教育期間と出院後の保護観察期間を勘案して、10ヵ月間の収容継続が必要である思料される。
〔参考2〕成績経過記録表<省略>
〔参考3〕個別的処遇計画表<省略>